セミナー情報

第53回ICTE情報教育セミナー in 早稲田

平成23(2011)年6月12日(土) 12:00-17:00
会場:早稲田大学西早稲田キャンパス

研究会の様子

12:00-12:10 開会挨拶
  田邊則彦 (関西大学初等部教諭/ICTE事務局長)
12:10-13:20 高等学校における情報教育の役割を考える
        
  黒上晴夫(関西大学教授)  

―小中学校における情報教育
「教育の情報化ビジョン」では「必要な情報を主体的に収集・判断・処理・編集・創造・表現し、発信・伝達できる能力等を育むこと」とある。ここには「何を使って」ということが書かれていない。
普段の学習はすべて情報教育なのだと言える。例えば国語の学習はすべて情報教育そのものである。したがってすべての教員がしっかり情報教育をすべきである。
最初に,小,中での情報教育の位置付けを学習指導要領を元に見て行きたい。
小学校国語の情報活用を見てみると,図表や絵,写真から読み取るということが書かれ,ローマ字の読み書きが第三学年になった。第五,六学年では情報を集め,関係づける活動や図表やグラフを作り読み取る活動もある。社会科では図書館やコンピュータを活用した情報収集,活用,整理などが盛り込まれた。理科でも「コンピュータを活用して」という文言がある。
中学校の数学では新領域として情報活用ができ,グラフや図形,表などを用いた表現が盛り込まれた。総合的な学習ではどんなテーマでも情報活用を取り入れるようにした。問題の解決や探究学習を通して,情報発信するということだ。道徳でも情報モラルが入ってきた。国語でも文章全体を整える,インターネットなどで情報を活用するなどがある。社会科では地理的分野で通信網を扱い,公民でも情報化が政治や経済に影響を与えていることを扱う。学習活動でも資料の収集や発表などでコンピュータの活用を謳っている。数学でも資料の活用が盛り込まれた。統計的な内容も考えられる。理科の実験観察でコンピュータを使ったり,音楽や美術といった芸術教科でもコンピュータや映像メディアの活用,また知的財産権や肖像権への配慮などがある。保健体育でも健康の問題として情報機器などとの関わり方について記述されている。 情報教育は小学校では浸透しているが中学校ではどうか。受験も含めて,情報教育をどのように位置付けるのかが課題になっている。

―高等学校における情報教育の役割を考える
情報教育はターゲットが広く,情報教育の機器の操作,情報メディアの読取,コミュニケーションの教育だけでなく新たな価値観やアイデアを生み出す方法も情報教育として含まれる。どうやってコミュニケーションや思考へつなげていくか。
高等学校の教科「情報」で,25年度から始まる「社会と情報」,「情報の科学」のそれぞれで,「情報化の進む社会に積極的に参画する」(社会と情報)ことや「社会の情報化の進展に主体的に寄与する」(情報の科学)ことができる能力や態度の育成が謳われている。このことをはじめ,各教科で情報教育が盛り込まれている。
学習指導要領に「討議し話し合う」という言葉がある。つまりディスカッションを指すのだが,これをそのまま放っておくと討議は成り立たない。論題としてのテーマがしっかり立てられていないと討議は成立しない。例えば情報に関連する議題としては著作権問題や複製問題がある。匿名性についてもテーマになるだろう。これらの問題を考えることが「社会と情報」の重要なことになる。
情報教育とは,人間についての教育と言える。情報通信技術の広がりは崇高なことも愚劣なことも可能にした。情報機器について学ぶのではなく人と人とのつながりを学ぶことが重要である。例えばスピーチをするときは本人がその内容を分かっているのか,身振り手振りなどとの連動,聞く側の反応のスキルなども必要になってくる。プレゼンテーションをやって,質問が出て,さらに調べる中で,スパイラルに学習する,総合的な学習にもつながり,人がつながればコミュニティの形成になる。
デジタル教科書も,学んだことが自宅でも学習できるような仕組みにしないといけない。ポートフォリオなども含め,先生の成績処理にも活用できるもの。銀行のオンラインシステムくらいのセキュリティが確保できれば,可能になる。それが高等学校のデジタル教科書の姿と言える。どこでも使えるものとしてのデジタル教科書があってもいい。この話は前半ともつながっている。







13:35-15:05 ポスターセッション
        教科「情報」2010年度の実践から!
五十嵐誠(神奈川県立横浜清陵総合高等学校教諭)
「データのばらつきを調べる~グループ研究の成果/教材の実践と検証~」

生田研一郎(中央大学杉並高等学校教諭)
「図解で理解する個人情報とプライバシー」

井口 巌(東北学院中学校・高等学校教諭)
「「その時あなたなら…」被災地からの報告」

磯崎喜則(日本学園高等学校教諭)
「イメージ化・記号化を意識して受発信能力を育成する学習の考察」

諏訪間雅行(神奈川県立平塚湘風高等学校教諭)
「授業に「話し合い」を」

谷川佳隆(千葉県立船橋芝山高等学校教諭)
「プログラミング学習についての生徒対象調査結果」

登本洋子(玉川学園高等部教諭)
「徹底的にMicrosoft Officeを指導する」

大川 学(株式会社大塚商会)
「「V-CUBEペーパーレス」他の紹介」

大山 裕(一般社団法人電子情報技術産業協会/日本電気株式会社)
「アルゴリズム体験ゲーム「アルゴロジック」の機能強化と授業実践」

中尾貴祥(アップタウン株式会社)
「スタークイズ3」





ポスターセッション講評
江守恒明(関西大学中・高等部教諭)
「アルゴロジックやスタークイズ,ブイキューブなど,どれも授業やテストなどにすぐに使えそうだ。五十嵐先生の実践はデータ処理の平均やバラツキを生徒が実感できる。登本先生はエクセルを集中的に使いながらキャリア教育や問題解決をやっており授業をよく計画されている。磯崎先生はイメージ化,記号化がテーマ。発信することは受信することでもある。生田先生のプレゼンは非常に分かりやすかった。授業とはこうあるべきであると感じた。諏訪間先生の発表は授業の中で対話を取り入れた実践で本当に素晴らしい。谷川先生の発表ではプログラミングの学習を意外にも高校生がやりたがっているのだということがわかった。井口先生の発表では,被災地の様子について,子どもたちがブログを立ち上げて,避難所の情報を発信したという話が印象的だった」

15:20~16:50 パネルディスカッション
  教科「情報」のデジタル教科書・教材を考える   
パネリスト:今田晃一(文教大学教授)
       辰己丈夫(東京農工大学准教授)
       稲垣 忠(東北学院大学准教授)
   司会:中橋 雄(武蔵大学教授)     

―デジタル教科書・教材の課題と実践
○中橋先生
思考と共有のツールとして教科書はどのように変わるのか。どのような学力を子どもたちに身につけさせるのか,そのためにICTがどのような役割を担うのか。教科「情報」のデジタル教科書・教材について考えたい。
○辰己先生
そもそもデジタル教科書とは誰が使うのか。提示型にしろ,iPadなどの端末による学習者型にしろ,学習の形態が大きく変わる。充電や環境負荷,耐久性,眼への負担をはじめ,対話的であるか,作り物の映像で本物を理解できるのか,教科書検定をどうするのか,教育クラウドで学習履歴を調べられるのか,中身をどう更新するのか,ネットワークが構築可能なのか。デジタル教科書に関して色々な検討事項がある。
○稲垣先生
教育の情報化で授業形態が変わる。フューチャ―スクールでは,全教室に電子黒板があり,教育クラウドが構築されており,協働教育を目指している。昨年度の調査から65の指導案と104の実践メモが出た。活動場面として,制作,グループ共有,クラス共有,他校との交流,調べ学習,個別学習が提唱されたが,実際の割合ではクラス共有スタイルが多い。もっとカリキュラムなどを変更していく必要があるだろう。
○今田先生
越谷市の先生方とデジ玉という勉強会をやっている。iPad2ではテレビ画面に写すことができるので,授業でも使いやすくなった。デジタル教育は「隔てる」という批判がある。しかし実際の活用場面では,「社会構成主義的」な協働教育,教え合い,学び合いがポイントとなっている。知識理解,技能習得・学び方の補完,イメージの拡充などを授業評価の観点としているが,私はこれに相互啓発という観点を加えたい。授業実践の様子を見てもわかるように,議論や討論ができている。
―Q&A
Q:「社会構成的」という言葉はどのような意味で使われている言葉か。
今田先生:一人で学ぶのではなく,お互いに影響を与えながらということ。オーセンティック,リフレクション,足場かけ・足場はずし,という三つの評価がある。
中橋先生:デジタル教科書に活動の履歴を蓄積することで評価につなげることができるかもしれない。

―教科「情報」のデジタル教科書・教材に向けて
○今田先生
触覚メディアという可能性がある。iPadを使って「触る」という学び方を提案したい。
○稲垣先生
一人1台に関しては,PC室でやっていたことが個別になっていく。個別のものと協働のもの,どのように使い分けていくか。これは端末よりもクラウドの問題である。協働学習では学校や地域と,個別では学習履歴などになる。デジタル教科書がもたらす変化には,一斉指導からの脱却がある。教科「情報」におけるプロジェクト学習は,一人1台の環境でもデジタル教科書でも十分に効果がある。先生方にもネットワーク活用や効果的なコミュニケーションを埋め込んだ授業をしてほしい。
○辰己先生
高校生以上を対象としたデジタル教材の場合,ドリル型の問題,現実的に実現できないもの,複雑な内容の可視化など,デジタル教材でないと学べないものを提供することが必要である。一方,「情報の科学」の多くの内容は,そもそもコンピュータを利用して学ぶものであるので,最初からデジタル教材である。ただ,工業規格の名称などの人工的な知識は,ドリル型デジタル教材が有用であると思う。
―Q&A
Q:デジタル教材の開発がユーザインタフェースの開発にもつながるのではないか。
辰己先生:ユーザインタフェースは学問として確立している。デジタル教材を開発する先生方にはぜひ勉強してほしい。

―デジタル教科書・教材で教育が変わる
○辰己先生
10年,20年先を見据え,今までの学習スタイルを変えて必要がある。よりよい選択をするために私たちは何を学ばなければいけないかをしっかりと考えるべきである。商業的,政治的な動きに敏感になりすぎるのはよくない。
○稲垣先生
デジタル教科書が与えたインパクトは大きい。端末に関してはここ1年2年で向上し,クラウドをどのように構築するかなどを議論していく必要がある。フューチャ―スクールでは,既存の授業にデジタルをどう活用するかという発想になりがち。新しい学びや学校づくりを考える時期にある。
○今田先生
デジ玉では発問に気をつけている。今までは先生が発問して返答するだけだが,デジタルになったら,質問がいってかえって,もう一回,という現象があるように感じている。発問,質問の力が重要になるのだろう。
○中橋先生
学校づくりや授業観,学力観の変化を考えるのが重要なのではないか。