セミナー情報

第46回ICTE情報教育セミナー in 福山
―新学習指導要領の告示を受けて―

日時:平成21(2009)年7月25日(土) 13:00-17:00
会場:福山大学社会連携研究推進センター

研究会の様子

13:15-14:45 何を変えるために,学習指導要領は変わったのか
―新学習指導要領から眺めるこれから10年の情報教育―
新学習指導要領が目指すもの
  江守恒明(関西大学特別任用教論)
従来の普通教科『情報』は「情報A」「情報B」「情報C」という三科目構成だったが,今回の新学習指導要領では一科目減少し,「情報の科学」(おもに「情報B」の内容)と「社会と情報」(おもに「情報Cの内容」の二科目になる。

○改訂のポイント
・必修科目である点,情報教育の目標(情報活用の実践力,情報の科学的理解,情報社会に参画する態度)は変わらない。
・小・中学校から高等学校の情報教育へとスムーズに繋ぐための性格を持っていた「情報A」の削除は,小・中学校での情報教育の成熟に伴って発展的に解消したと考えるべき。
・インターネットや携帯電話普及に伴い,情報モラルが以前よりも強調されている。
・他教科との連携(公民科で「情報社会について」クローズアップする,数学科での「情報の科学的理解」など)が具体的に明記されている。
・実習の縛りが撤回された。

○発達段階に応じた「情報モラル」教育
「情報モラル」を小学校の手引きで確認すると,「規範意識」「他人を思いやる気持ち」「命を大切にする」といった,機械の取り扱いよりも道徳的な問題に焦点を置かれている。高等学校については,「社会と情報」と「情報の科学」の性質を考えた上で,「社会と情報」では利用者としての立場からの情報モラル,「情報の科学」では技術者としての情報モラルを教えるという形で,発達段階に応じた情報モラル教育を行う。 ルールを具体的に理解した上で様々な行動が出来るようにしていく必要があることから,学習場面として生徒自身が考えたり,討議や発表といった学習活動が明記されている。





新学習指導要領「社会と情報」を考える
  小原 格(東京都立町田高等学校教論)
「社会と情報」のベースは「情報C」であり,現行「情報C」の内容を確認することが重要である。 小原先生はまず,一番のポイントとして「主従関係」の変化を挙げた。

○「社会と情報」のポイント
・「コンピュータ」から「コミュニケーション」へ
「表現やコミュニケーションにおいて『コンピューター』を効果的に活用する」 から 「情報通信ネットワークなどを適切に活用して情報収集処理表現するとともに,『効果的にコミュニケーションをする能力』を養う」 へと変化し,コンピュータの活用から,それをどの様に活用してコミュニケーションを行っていくかへと目標が移った。
・情報モラルを強調
法規も含めて扱うことが明記されており,特に「人」の問題,「技術」の問題,「法」の問題,という三つの観点から授業を進める必要。
・「生徒が主体的に考え,討議し,発表し合う」
相互に意見を「交換しあう」ところがポイント。

○「社会と情報」を具体的に考える
・「情報とメディアの特徴」
・「コミュニケーション手段の発達」
・「問題解決」
・「実習」について
・電子メールや情報通信ネットワークのしくみを通しての体験的な「実習」
・情報の送受信時の注意点・信憑性・著作権・法などの調べ学習的な「実習」
・従来の情報A(3)イ・情報C(1)ウ,「ディジタル作品」の作成の課題制作的な実習,「総合実習」扱いの問題解決的な「実習」

○まとめ
・教員自身の「情報」「メディア」「コミュニケーション」「問題解決」に関する知識の必要性
・PC操作だけを教えれば良い時代の終焉
・生徒の「情報格差」が大きくなり,習熟度の低い生徒へのフォローや「フォローアップ教科」の設定などが必要
・どのような形で「実習」「発表」を構成するかが重要





明快!「情報の科学」のこころ
  奥村 稔(北海道札幌北高等学校教論)
「社会と情報」に対して,情報の「科学」と言うくらいなら,理系分野であり数学が出来なければダメである,コンピュータやインターネットを上手に使えなければ難しい,理系学校だから「情報の科学」を履修するという極端な二元論になってしまうのではないか?  まず情報の科学的理解を基盤に置いた上で,情報と社会の関わりを学んでいく一本化教育が望ましい。

○「情報の科学」のポイント
・「コンピュータにおける情報の表し方」から「情報通信ネットワークでの情報の表し方」へ,「問題解決におけるコンピュータの使用」から「情報・情報技術の使用」へ変更。
・「情報社会における主体的な関わりを持つ」,「問題を発見,解決する」など,情報Bよりもより発展的。

問題解決に特に重点を置かれているが,問題発見について記されておらず,教育者側は子どもたちに問題解決だけではなく,いかに問題発見をさせるかを考える必要がある。

○「情報の科学」の構成
「コンピュータと情報通信ネットワーク」(ディジタル化などのしくみ等)が一番にあり,その上にコンピュータを使用しての問題解決(処理手順の自動化・モデル化・シュミレーション等)とネットワーク上のコミュニティを使用しての問題解決(データベース等の有効活用),そして問題解決の評価と改善がある。





15:00-17:00 パネルディスカッション
教科「情報」の授業でケータイをどう取り扱うか
―情報モラル教育の過去,現在,未来からキーコンセプトを見つけ出す
子どもとケータイ
  内垣戸貴之(福山大学講師)
現状では,子どものケータイの所持の是非や,学校へのケータイの持ち込みについては,行政,自治体で対応がバラバラとなっている。このような中で,文部科学省ではケータイを学校に持ち込むことを禁止する通達を出し,石川県では,子どもにケータイを持たせないよう保護者に努力義務を課す条例が可決するなど,ケータイそのものを子どもから取り上げる風潮が次第に広まりつつある。なぜ,文部科学省,石川県がこのような対応を取ったのか,これによって何が変わるのかを,情報モラルを考えるためのキーポイントを考えたい。

・ケータイは,技術の向上によってパソコンと何ら変わらない機能を持ち始めているが,ケータイの問題のみが取りざたされ,以前に比べると子どものパソコン使用に対する批判は薄くなっている。それはなぜか?
・和歌山県のある教師による調査では,ケータイの使い方を独学で身につけたという中学生は,全体の6割から8割にのぼった。また,ネットでのトラブルが発生したときに誰に相談するかという質問に対しては,学校の教師がわずか3%だった。これらの結果は,ケータイやネットの利用に関して,子どもたちが学校をアテにしていないことを表しているのではないだろうか。また,これらの傾向から,情報モラル教育に関して学校の教育は後手にまわっており,学校現場が必要以上にケータイを避けている傾向があるのではないかと考えられる。
・新学習指導要領には,「コンピュータや情報通信ネットワークなど」の手段を適切かつ実践的,主体的に活用するよう指導すると記されており,このなかに,子どもたちにとってもっとも身近なツールであるケータイが含まれるべきではないか。
・情報モラル教育に関する現場の遅れは,教育の手段(実践事例)に関する情報の少なさが関わっているが,ないわけではない。様々な団体が教材を作っている。




高等学校における情報モラルの実践事例
  池田 明(大阪市立扇町総合高等学校教諭)
○情報モラルのアプローチ
・「学校裏サイト」などの問題が起こってきている現状を踏まえ,情報モラルの教育が教育現場に強く求められている。
・情報モラルについては,たくさんの指導すべき「ネタ」があり,それはセキュリティー,著作権,ネチケット等,さまざまなカテゴリーにまたがっている。その「ネタ」をどのように「調理」して提供すべきか。情報モラルに対する子どもたちの新たな気づきを引き起こすためには,コース料理のようにただ内容を並べるのではなく,ア・ラ・カルトのように1つの素材を掘り下げて学ばせていくほうが効果的ではないかと考える。

○情報モラルの指導事例
―(実践例1)
英国のビデオクリップ「Let's fight it together.」を通じた,ネットいじめ問題の学習。ビデオを視聴した後,映像に関するいくつかの質問を書いたワークシートに記入させ,その問題についてディスカッションさせる。
―(実践例2)
ネットいじめによる自殺に関する新聞記事を生徒に読ませ,気づいたことなどをワークシートに記入,ディスカッションする。その後,いじめのなかから「ネットいじめのみに起こりうる問題」を抽出し,KJ法を利用してまとめ,複数のグループで評価しあう。
※これらの実践教育は,1時間から実施可能でとても行いやすいが,十分な素材の準備や,いじめ経験者に対する配慮が非常に重要である。




ケータイをめぐる日常経験を共有する教育実践の可能性
  飯田 豊(福山大学講師)
飯田先生は,社会学の立場から若者のケータイ利用について研究している。調査・分析から,教育実践に活かすことのできる要素について紹介したい。

○若者のケータイ利用を取り巻く問題
・大人になれば必ず使うものであるケータイを,子どもたちから隔離する流れになってきているのは,ケータイに関する諸問題の構図を捉え損ねていることが根底にある。
・ケータイの利用で生まれる構図には,大きく分けて二つの系統がある。

(1)日常生活の「外部」と接続するケータイ
見ず知らずの相手との匿名的なコミュニケーションに伴う危険性が大きな問題としてある。商用利用によって特にその危険性が増しているが,こういった危険は,そもそも電話がネットに接続できなかった時代から起こっていたものであり(テレホンクラブやダイヤルQ2など),本質的にはほとんど変わっていない。ケータイに特有の問題ではなく,以前からあったことであるならば,これまでに蓄積されてきたモラル教育の枠組みは,依然として有効のはずである。

(2)日常生活の「内部」を再構成するケータイ
実際には,出会いを目的にケータイを使うケースは僅かであり,日常では学校の友人等,きわめて親しい関係性のなかで使われるのが一般的である。その中で,ケータイによって伝えられたメッセージが自分の身体に拡げられるような感覚をおぼえる。このような独特の感覚を,いかに自覚するかが重要である。メールでは,何らかの情報を伝達しているのではなく,連絡を継続しているというのが若者の感覚である。年賀状を送りあうことが,情報の伝達ではなく互いの関係の確認となっているのと同様で,これがメールで一日も欠かさず続けられているようなものである。メールを受け取ってすぐに返信しなければならない「即レス」は,こういった感覚から起こるものである。また,「学校裏サイト」と呼ばれるものの95%は健全な内容で運営されており,「勝手サイト」と呼ばれている。こういったことから,ネットいじめは必ずしもサイトの存在に起因する問題ではなく,クラスの人間関係の構築にも問題があると考えられる。ケータイに関する課題は,人間関係の構築の仕方に関する現代特有のものであるが,ケータイの「安全な」使い方の知識や,それを活用する「正しい」技能を教えるだけではどうしても足りない。

○ケータイをめぐる日常経験を振り返り,共有する
ケータイが日常生活をいかに再構成し,人間関係の構築の仕方に作用しているかを,みずからの経験をもとに振り返り,その失敗も含めて互いに共有し,理解を深めることを目的とする教育実践が重要ではないか。

(実際のワークショップの例)
子どもたちに,ケータイに関する様々な要素を,思いつく限りポストイットに書かせる。はじめは通話やメール,目覚まし時計など,ケータイの機能に関する記述が多いが,次第に「飲食店で一人でいるときにケータイをテーブルの上に置く」などといった,日常生活でのケータイとの関係性を書くようになる。これらを模造紙に張り付け,座標軸を書いて,ジャンル別に整理をする。ジャンルは何でも良く,整理によって内容の共有をしやすくすることが目的である。たくさんの例を出していく中で,「気まずい人とすれ違うときにケータイを見る」などといった,人間関係を構築するうえでの微細な事象が出てくる。こうした経験を意識化していくことが重要である。


(文責:福山大学学生 住元謙太,佐藤修介)