セミナー情報

ICTE 情報教育セミナー みなとみらい
「社会と情報」「情報の科学」の授業を考える

日時:平成21(2009)年6月14日(日) 13:00-16:30
会場:神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター KUポートスクエア (クイーンズタワーA 14階)

研究会の様子

13:00- 開会挨拶
  小林道夫(神奈川大学附属中・高等学校教諭)
13:10-13:40 中学校の学習指導要領改訂は情報科にどう関わるか
  小林道夫(神奈川大学附属中・高等学校教諭)
中学校の新学習指導要領は,平成20年3月29日に告示された。平成25年度から年次進行で実施される高等学校の情報科に向けて,中学校での改訂のポイントについて小林先生にお話ししていただいた。

○小学校・中学校の状況
・小学校,中学校の移行措置は今年度から始まっている。
・小学校では,情報教育に特別に教科があるわけではなく,全教科で取り組む。基本操作,情報モラルなどに慣れ親しむ。
・中学校では,コンピュータやインターネットを積極的に活用できるよう授業を充実させる。また,中学校の情報教育は,技術分野がその役割の多くを担っている。

○中学校技術・家庭科
・時間数は変わっていない。
・技術科では,内容の構成が2つから4つへと変更になったが,情報の扱いが4分の1に減るということではない。
(現行学習指導要領)
A技術とものづくり
B情報とコンピュータ

(新学習指導要領)
A材料と加工に関する技術
Bエネルギー変換に関する技術
C生物育成に関する技術
D情報に関する技術
・技術家庭科は3年間実施で,中1週2時間,中2週2時間,中3週1時間。技術分野はこれの半分になるということ。

○技術科の情報教育
・これまで通り20~30時間。多くの学校が,中学校3年生の技術で情報を扱うことになるだろうが,色々なパターンは考えられる。
・「情報に関する技術」は6項目から3項目となった。「情報通信ネットワークと情報モラル」「ディジタル作品の設計・制作」「プログラムによる計測・制御」
・これまでは,マルチメディア,制御は選択で,マルチメディアを選択する学校がほとんどだったが,全分野を行うということになった。
・新学習指導要領では,仕組みなどの教える内容は増加した。その代わりに,ソフトウェアの機能,コンピュータの基本的な使い方といった部分が削除されている。

○中学校から高等学校へ
・技術科は,情報技術を中心とするというスタンスは明確になった。
・今まで,選択となっていた部分が,全分野必修となり,連携はスムーズになるといえると思う。
・基本操作,ソフトウェアの活用,情報検索など削除された部分が心配。
・他教科などでの取り組みによって,学校間格差が広がるかもしれないという懸念はある。




13:50-15:00 【模擬授業】高校生にメディアの意味と特徴をどう教えるか
  中橋雄(武蔵大学准教授)
新学習指導要領の「社会と情報」では,(1)ア情報とメディアの特徴という項目が入り,「情報の特徴とメディアの意味を理解させる。」という文言が入った。これを受け,中橋先生からは,メディアの意味と特徴を教える実践の例を示していただいた。総務省のWeb教材「放送記者坂井マヤ~ストーリーをさがせ~」(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/hoso/tv_sakai_maya.html)を活用し,模擬授業形式で行われた。

中橋先生は,実際に授業で「放送記者坂井マヤ」を使用することを想定し,各自ストーリーを進めながら,全体での指示のポイントなどを説明した。「放送記者坂井マヤ」は,新人記者の坂井マヤが火災現場に遭遇し,ニュースにするまでを体験できるコンテンツである。どの場面を映像素材に収めるか,どんなナレーションを入れるか,各々が体験できる。
ニュース制作後は,隣の人と作品を見せ合い,制作の意図を意見交換した。
また,数名の方に全員の前で作品とポイントを発表してもらった。
発表者からは,
・火災が起きてから1時間後の発表ということで確かな情報が得られにくいところを考慮した。
・いつどこで何が起きたか,を入れた。
などの意見があった。

中橋先生より,実習のまとめとして,
・まったく同じ出来事を伝えようとしても,仕上がりは異なる。
・メディアは送り手によって構成されている。
・伝えていること,伝えていないことがあり,取捨選択がある。
というようなことを確認させ,
・メディアから伝えられていることが「現実」となっている。メディアは一般常識,「現実」ですら構成する。
・悪意をもてば人をだますような映像をつくれてしまう。本当のことではないナレーションだってあるかもしれない。送り手,受け手として,どうメディアと接していくかを考える必要が有る。
といったことについて気付かせたい,とお話があった。

また,メディアの意味について,
「もともとは,中間・間に入るもの。媒介・媒体という意味。送り手と受け手の間にあるものがメディア。受け手も読解・解釈を行っているし,受け取り方も一様ではない。」と説明。
「意味,解釈は,人間の文化的背景によって異なり,そこの部分まで捉えないと,メディアとコミュニケーションを捉えたとはいえないかもしれません。」

最後に,メディアと社会の関係として,
・現代社会はメディアなくして成立しない。
・コミュニケーションは社会を形成していく。
・メディアが社会形成に与える影響は大きい。
・誰でも情報発信ができる時代。
などの特徴を挙げた。

参考URL:
―「新学習指導要領・「社会と情報」における「メディアの意味」をどう捉えるか」『ICT・Education No.41』
 http://www.nichibun.net/case/ict/41/01.php
―「放送分野におけるメディアリテラシー」(総務省)
 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/hoso/kyouzai.html
―NHK「10min.ボックス」中高・情報●NHKデジタル教材
 http://www.nhk.or.jp/10min/joho/ja/frame.html





15:20-16:30 【模擬授業】実践・アンプラグドコンピュータサイエンス
  保福やよい(神奈川県立松陽高等学校教諭)
アンプラグドコンピュータサイエンスとは,1998年TimBellが提唱した「情報科学を体験的に学ぶ教育方法」であり,保福先生は,2007年度から授業に取り入れている。今回は,実演を交えながら紹介していただいた。

最初に,アンプラグドデモとして,カード交換手品を実演した。片面は白色,片面は黒色のマグネットを6列6行白黒ランダムに並べ,保福先生の見ていないところで,聴衆者に1枚ひっくり返してもらい,どこをひっくり返したのかあてるというものである。6列目6行目にしかけがあり,パリティチェックのしくみがわかる実習である。

デモの体験の後,アンプラグドの特徴や効果を説明した。「知識を教えるのではなく,自分で考えて発見させることがたいせつです。」

「50年前の操作教育は現代では使えないことを考えると,現代の操作教育についても同じことはいえるかもしれません。しかし,情報機器を動かす仕組みはあまり変わっていません」と仕組みなどを教える重要性について強調。 また,現行の学習指導要領,新学習指導要領との対応関係などを示した。

○2進法を学ぶ実習
2進法を学ぶゲームを実際に行った。5人1組となり,それぞれ1,2,4,8,16個の数●印が記載されたカードを持つ。カードを上げ下げし,1~31までの数を作っていく。グループ学習の後,小さいカードで個人でも同様のことを行わせ定着を図る。

このとき,2進法,10進法,ビットについても教え,カードの枚数はビット数を表していると考えることができると生徒に説明する。コンピュータではONは1,OFFは0となる。生徒には,この実習だけではなく,10進数を2進数に直す,2進数を10進数に直すということをさせ,定着させる。

2進法の授業をする上での留意点 ・アイスブレークをやる。
・グループで,0~31までをやる前に話し合いの時間をとる。
・初めての概念なので,生徒には難しいということを承知しておく。

○伝達ゲームの紹介
文字コードを学ぶゲームを紹介した。アルファベットに数字を割り振り,4人1組になって,■を1,□を0として2進法で表現し,メッセージを伝える。8文字以上12文字以内だが,成功率は50パーセントくらい。 たとえば,屋上からでも送れるが,このルールを知っている人にしか伝わらない。 こういった対応関係,数が文字コードのこと,と説明する。 「"5bitの文字コードを送ったのに,7bitのアスキーコードだとどう?"と言うと,"文字が化ける"と生徒はすぐわかります。」

その他,ランレングス圧縮などを学べる実習などを紹介した。

参加者からは,「授業で是非やってみたいと思った」などの意見があがった。

参考URL:
―『コンピュータを使わない情報教育 アンプラグドコンピュータサイエンス』(株式会社イーテキスト研究所)
 http://www.etext.jp/unplugged.html