10:00- 会長挨拶
水越敏行 (大阪大学名誉教授,関西大学特別顧問,ICTE会長) |
10:30-12:00 何を変えるために,学習指導要領は変わったのか
―新学習指導要領から眺めるこれから10年の情報教育―
江守恒明(関西大学特別任用教諭)
小原格(東京都立町田高等学校教諭)
奥村稔(北海道札幌北高等学校教諭)
司会:田邊則彦(関西大学特別任用教諭) |
平成21年3月9日に告示された高等学校の新学習指導要領を受け,3名の先生から,情報科の新しい内容や目指す方向性について語っていただいた。
全体的な話を江守先生から,「社会と情報」の話を小原先生から,「情報の科学」の話を奥村先生からお話しいただき,最後に会場からの質問を受け議論を深めた。
―『新学習指導要領が目指すもの』江守恒明
○情報科の改訂で変わらないもの
・必履修
・情報教育の目標の3観点
○変わるものとしては,
・新科目と情報A
・情報モラルの重点指導
・習得→活用→探求,主体的に対応できる能力と態度の育成
・実習時間の縛りがなくなった。
○情報モラル教育について
・小・中・高の総則にも入ってきている。
・発達段階に応じた情報モラル教育が必要
―『「社会と情報」を考える』小原格
○ポイント
・ベースは「情報C」!
・主従関係が変わった「コンピュータをどう使うか」から「コミュニケーションをどうするか」へ
・「情報モラル」が大きく意識された。法規も含めて扱うことが明記
・主体的に考え,討議し,発表しあう
○具体的には…
・「情報とメディアの特徴」
・「コミュニケーション手段の発達」
・問題解決
・実習の3つのやり方
-体験的な実習
-調べ学習的な実習(中心になる?)
-課題制作・問題解決的な「実習」
○まとめ
・情報,メディア,コミュニケーション,問題解決に関する知識が必要。
・操作だけを教えれば良い時代の終わり。
・生徒の「情報格差」への懸念。
・どのような形で「実習」「発表」を構成するか。
―『明快!「情報の科学」の心』奥村稔
○「情報の科学」応援団です!
・科学は理系で,社会は文系というのは分かりやすいけど…,そうではないはず。
・科学の理解が物事の理解の基となるべきでは。
○情報技術教育や,情報社会教育,情報科学教育,情報検定教育,これらとは,情報教科教育はわけて考えられるべき。
○情報の科学の中心は問題解決!
・現行の学習指導要領ではコンピュータを使って問題解決としか書いてないが,明らかに足場がネットワークになってきている。
・コンピュータと情報通信ネットワークの理解が基盤となり,その上にコンピュータを用いた問題解決,ネットワークを用いた問題解決並列。情報モラルはその都度やれば良いと思う。
○骨太の情報科を提唱します! 理解→習得→探求
・第1章 情報を理解する(ディジタル化・ネットワークなど)
・第2章 情報を活かす(課題解決のための基本)
・第3章 情報を読み解く(メディアリテラシー)
・第4章 情報と暮らす(情報モラル)
○問題解決の体系化
○問題の設定が肝
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―Q&A
Q:メディアやコミュニケーションの具体的な内容はどのようなものですか。
小原先生:メディアというのは,立場によっても分類の方法も違う。これは何メディアと教えても意味がないように思う。上手に使うにはどうしたらいいか,ということを考えてやっていくのがいいように感じている。
奥村先生:自分に対して情報をもってきてもらうものはメディアだと思っている。クリティカル・シンキングを身につけさせるのが情報の科学のメディア的な介入ではないですかね。日頃の情報収集もたいせつ。
Q:一緒の学校に勤務している情報科免許を所有する同僚をやる気にさせて,新学習指導要領のもとで仲良く一緒に頑張ってもらえるように持っていくポイントのようなものがあれば教えて下さい。
江守先生:手法としては特にない。自分が一生懸命やっていることを出すこと。それによって子ども達が情報の授業が楽しい,と,そうなればそれが子どもから広まっていく。私は,昨年度は,高校の向かいの郷土資料館のプロデュースという実習をした。そこで働いている方たちはとっても喜ばれた。質問されて,写真をとられて…。教員を巻き込むというより,外の方を巻き込む。外へ広げていく試みをされるとよいのではないでしょうか。
Q:「問題解決」「コミュニケーション」は最終的にすべての教科に関わると思いますが,新科目「社会と情報」「情報の科学」を学ぶことは他の教科とどうつながるのか知りたい。
奥村先生:情報っていう教科はメディアそのもの。結局は,何を教えたいかというよりも,どういう切り口でどう教えるかということ。
小原先生:例えば,統計的なところは数学にかかってくる。量子化・符号化は物理,光の3原色は美術,論理的な話は国語,コミュニケーションは英語,社会問題を扱えば社会,と,普通にやっていけば当たり前に関わってくる。
Q:理解度を上げるのではなくて,態度を育てるのが大事という話に安心しました。はっきりしていない問題を扱うときに,どう時間をコントロールするしているのか,コツを教えて下さい。
奥村先生:僕は生徒に「これは何時間で実施する」と最初に言っている。時間制限のない問題解決はありえない。生徒が時間的にどうしようもなくなったら相談してくる。ネゴシエーションも問題解決。
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13:00-14:45 ポスターセッション
教科「情報」2008年度の実践から!
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田中 洋(東京都立八潮高等学校教諭)
「Wikiによるレポート作成・レポート交流の実践」
五十嵐誠(神奈川県立横浜清陵総合高等学校教諭)
「教職を目指す学生の育成 ~短期集中講座へのインターンシップ受け入れ~」
間辺広樹(神奈川県立秦野総合高等学校教諭)
「体験型の教育手法「アンプラグド」を取り入れた情報科カリキュラムの提案」
大橋真也(千葉県立東葛飾高等学校教諭)
「積極的な情報モラルの態度を育成するための試み」
滑川敬章(千葉県立柏の葉高等学校教諭)
「専門教科「情報」と高大連携を活かした実践 ~情報に関する学科での授業実践の紹介~」
谷川佳隆(千葉県立船橋豊富高等学校教諭)
「情報表現の指導実践から」
沖田敦志(埼玉県立所沢西高等学校教諭)
「メディアリテラシーの実践(パワーポイントでCMづくり)」
曽田正彦(埼玉県立川越西高等学校教諭)
「県立川越西高校における情報Aの実践 ~職業調査~」
山﨑貴史(栃木県立鹿沼東高等学校教諭)
「普通科高等学校におけるプログラミング教育」
今井大介(東京都立秋留台高等学校教諭/ICTE東京支部)
福原利信(東京都立久留米西高等学校教諭/ICTE東京支部)
「ICTE東京支部活動報告」
津賀宗充(茨城県立鉾田第一高等学校/ICTE茨城支部)
「7年目を迎えたICTE茨城」
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ポスターセッションまとめ
生田孝至(新潟大学理事・副学長)
「素晴らしい情報の授業を実践されている先生方にお集まりいただいていると思う。アンプラグドからエクセルVBAまで,本当に色々な授業実践を知ることができた。これだけの実力の先生方なら,もうちょっと違う形のポスターセッションがあってもいい。メッセージを発信して,聞きにいらっしゃっている先生方と課題を持ち上げていくようなことができると思う。超一流の先生方なので,説明を超えて,もっとセールスポイントを出していただけると良い。」
黒上晴夫(関西大学教授)
「二つのことを感じた。
1.情報の科学に関することで,うまく身体化して理解するようなツールをお持ちだと感じた。
2.教科情報のディシプリンは何かということを考えたとき,「表現」ということがある。単に表現するということだけでなく,「表現」ということに関して一生役立つような基礎を作ることができるか,もう一歩進めて,焦点化して実践すると良いのでは。」
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15:00~17:00 ワークショップ1
賛成?反対?「情報」大学入試,ペーパーテストからプレゼン入試まで,
情報関連入試に現場はどう応じるか
コーディネータ:黒上晴夫(関西大学教授)
寺嶋浩介(長崎大学准教授) |
今回,「情報」の入試について,実際の入試問題を見ながら,大学から何が求められどんな授業が必要なのかを話し合うワークショップが行われた。一般入試からAO入試まで様々なタイプの入試を参照し,議論を深めた。
最初に,4~5人のグループを作り自己紹介をした。
その後,入試問題から抽出された6種類の問題について,新しい学習指導要領での対応領域と求められる学力について書き,グループごとに発表した。
グループで一つ,一番これまでの授業では対応できない問題を選び,授業で対応すべきこと,学年,活動内容,評価,他の教科との関連などをプランニングし,定期考査でどんなことをしたらよいか考え,発表した。
プレゼン,ディスカッションなどを実施しているAO入試を選択したグループからは,
「プレゼンテーションの授業等で,調べて発表し,相互評価を行うなど,もっと高めていく必要がある。プレゼンの様子をビデオ撮影して,自分を客観的に見る機会をつくる。ディスカッションは手法を学ばせる必要もあるだろう。定期考査では論述や,時間内に資料を完成させる等のタイプの問題が考えられる。」
などの意見があがった。
最後に,こういう問題を出してほしいという大学入試への提案を話し合って発表した。
参加者からは,
「情報をデザインする力を問う問題。地図を描く問題とか。長文を要約してデザインして表現する。」
「A,B,C全ての科目をやっている高校はほとんどないので,大問で選択できるような形式にして,1科目しかやっていなくても受けやすいようにしてほしい。」
「新指導要領からは,社会と科学を別にして,はっきりわけてほしい。」
「プレゼンやディスカッションは,評価の観点を明らかにしてほしい。」
などの意見が出た。
黒上先生からは,「これまで「情報A」があるのが試験のネックだったともいえる。2科目になり,もっと入試に入っていくかもしれない。」との指摘があった。
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15:00~17:00 ワークショップ2
「ケータイ持込禁止」報道から考える“メディア・リテラシー”
コーディネータ:田邊則彦(関西大学特別任用教諭)
講師:中西茂(読売新聞東京本社調査研究本部研究員教育担当)
渡邊純子(株式会社コドモット) |
最初に,参加者が各自,資料として配布された読売新聞の記事に目を通した。その後,4~6名のグループをつくり,参加者の各学校の現状紹介や,ケータイに関する取り決めについて,情報交換をしてアイスブレーキング。
次に,株式会社コドモットの渡邊純子氏から「メディアとしてのケータイ」というテーマで,ケータイをメディアとしてみた時に,どのような特質があるかをお話し頂いた。
渡邊氏の話を聞いた後,参加者が各自もう一度新聞記事を読み,その記事が誰に対して,何を訴えるために書かれたのかを考えた。
そして,読売新聞社の中西茂氏にお話しを頂いた。中西氏からは,読売新聞の長期大型連載「教育ルネサンス」の記事をまとめた冊子が配られた。中西氏は,「田邊先生から「ケータイ原則持込禁止の措置は,すでに多くの学校で行われている。今さら大きな話題にする必要はあまりないのではないか」という話があったが,なぜ今多くの学校でのケータイの持ち込みが禁止されているのかということを,改めて考えてほしい。」と話した。
最後に,もう一度グループに分かれて,学校でのケータイの扱いについて,どのような問題意識を持ったか,ケータイを授業で扱う際にどのようなアプローチをすればよいのか,ということについてディスカッションし,各グループで発表した。
各グループからは,以下のような意見が出た。
・ケータイについては,生徒に「先生が見ている」という緊張感を与えることが大切。
・生徒が入学した段階で,ケータイに関するルールをきちんと伝えることが大切。ルールが厳しくなるのは,生徒がルールを守らないからだということを理解させる。
・記事では,ルールとモラルが混同されていないか。無断撮影は犯罪であるのに,それを「いじめ」という,モラルの問題として扱っている。
・今の生徒は新聞を読むのだろうか? ケータイ小説を読むのは文字量が少ないからか。
・新聞よりテレビの方が,音があり,枠の中でうまく情報を伝える工夫があるから,生徒にとっては慣れたメディアになっている。その一方で,テレビは見られるが,ネットの映像はあまり見られない。また,ネットではニュースサイトのビューが多い。どのようなメディアが重要であるのか考える必要がある。
・ケータイの学校持ち込み禁止については,「禁止」から漏れる生徒が出てきた場合,どうサポートするのかを考えなければならない。ルールをつくり,禁止することを頑張りすぎると,かつての生徒指導のように,かえって学校が困ることになる。
・学校ではケータイを全面禁止にしているが,生徒は守らない。生徒指導に追われて,マナー教育に終わってしまい,メディアとして使いこなすところまで教えられない。
・ケータイは「禁止」ではなく「共存」することを考えることが必要。ケータイが学校からなくなって楽なのは先生だが,ケータイは実際に社会にあるもの。
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