12:30~ 開会挨拶
水越敏行(大阪大学名誉教授,関西大学特別顧問,ICTE会長) |
「熊本でICTEを実施するのは初めてです。今回は韓国からInsook先生に来ていただきました。隣の国にも関わらず私たちは韓国の状況をほとんど知らないでいる。今日は一緒に勉強したいと思います。」
総合司会:田邊則彦(慶應義塾湘南藤沢中・高等部教諭,ICTE事務局長)
「今回は40回目の記念セミナーとなります。多くの先生方のご参加に感謝します。Insook先生のご講演にあたっては,鈴木克明先生に逐次訳をつけていただきます。Insook先生は英語でお話くださいます。」 |
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13:15~14:15 基調講演
ICT Education in KOREA:Now and the Future
Lee Insook(Sejong University)
通訳:鈴木克明(熊本大学大学院教授) |
Insook:「こんにちは。40回目の開催おめでとうございます。韓国の教育の状況について,成功も失敗も共有しながら,みなさんと学んでいきたいと思います。」
講演の主な内容
・韓国がICT教育を推進してきた理由
・教育におけるICTの進化の段階(CAI→e-Learning)
・教育の基礎統計
・教育用コンテンツの開発
・主要な政策(EDUNET,NEIS,the Cyber Home Learning System)
・その他システム(DLS,Educational Resourses Sharnig System,Broadcasting Cyber High School)
・教員研修
・ICT促進計画のビジョン(ユビキタス学習パラダイムに向けて)
・UMPCの教育利用についての実証実験
・教科書のデジタル化(小学校:国語,倫理,社会,数学,科学,物理,音楽,芸術,英語。中学校:数学,科学,英語。高校:数学,英語。)モデル校が20校。
・eラーニング化の課題(品質問題,人材問題,法律・規則の修正,標準化)
質疑では,韓国での子どもたちの携帯電話の普及率に関するものと,IT系企業の教育への働きかけの現状などについて質問があった。韓国でも高校生はほぼ100%の所持率で,大都市圏では小学生も携帯電話を所持していることは珍しくない。企業の教育貢献としては,サムスンが学校にPCを寄付している例や,韓国テレコムが国のユビキタスプロジェクトを支援している例などが述べられた。
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14:25~15:55 実践報告
情報の授業をどう創るか―実践報告から学ぶこと
報告者:内野孝一郎(鹿児島県立志布志高等学校教諭)
倉田 伸(長崎県立長崎北陽台高等学校教諭)
小原 格(東京都立町田高等学校教諭)
司会:寺嶋浩介(長崎大学准教授) |
内野先生からは,現在の情報科の授業の課題がいくつか挙げられたが,中でも特徴的な内野先生の問題意識としては,座学と実習の教育機能的な分担の難しさという点があった。実習はもちろん大事だが,やらせっぱなしにならないように注意している点や,座学の時間も化学実験室で行い,広いテーブルで必要に応じて手作業をしやすい環境にしているなどの工夫が報告された。その他フリーソフトの活用など予算面での工夫も報告された。
倉田先生の問題意識は,いまだ情報モラルの教え方が確立されていないところにあった。倉田先生は玉田和恵らの「3種の知識」による指導法を参考にして情報モラルの授業を行っており,これについての報告があった。3種の知識を活用することで,情報モラル判断の枠組みを生徒に示すことができ,十分とはいえない情報科の授業時数の中で,より効果的な授業ができるとのことであった。
小原先生からは,進学校における生徒の特徴として「すぐに正解を知りたがる」生徒が多い点が強調された。小原先生は,生徒に考える力をつけさせたいと考え,年間を通じたよくデザインされたカリキュラムを検討している。その中の一つの具体的な授業実践として,表計算ソフトを使ったグラフ作成の単元と関連させ,発信する側としての「わかりやすい表現」に関すること,受け手側の視点として「グラフには意図がある」という点,その両方をうまく教えている。テレビや新聞などにある実例をもとに生徒の興味を引くことにも成功し,生徒の反応も上がってきたことが報告された。
司会役の寺嶋先生より論点の整理と,各発表者への質問が投げかけられ,フロアとの質疑も活発に行われた。活発な意見交換の後,「座学と実習の組みあわせの再検討」「情報モラルにおける知識と倫理」「総合実習の積極的推進」が必要であるとまとめられた。
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16:05~16:55 シンポジウム
教科「情報」の未来を創る―新学習指導要領で授業はどう変わるか―
園屋高志(鹿児島大学教授)
黒上晴夫(関西大学教授)
水越敏行(大阪大学名誉教授,ICTE会長) |
園屋先生からは,大学での情報教育の事例として,毎時間新聞記事をコピーして配布し,実社会の話題から授業への関心を高める工夫をしていることなど,いくつかの事例が紹介された。教科「情報」については,今後より一層重視される事柄として「社会と情報の関係」「表現力」「コミュニケーション」「情報モラル」を挙げるとともに,動きの激しい社会の中では,教師に必要な授業力というものも変わってくるのではないかと述べた。従来までは授業の展開を決めてから教材を探したり作っていたりしていたけれど,それでは間に合わなくて,今の時代であれば,既にあるコンテンツから授業のアイディアを作っていくという方向の授業計画も十分に可能であり,そういう考え方もあるという話があった。
水越先生は,テレビ会議でお互いに英語と日本語の教え合いをしているオーストラリアと日本の中学校の事例を紹介しつつ,日本での英語教育の開始が近隣のアジア諸国のほか,諸外国と比べてかなり遅いこと,そのために世界的な情報化と国際化から取り残されるようなことがあるとすれば大きな問題になるという問題が提起された。そうした状況を解決するひとつの方法として,交流学習があるが,そこでは「言語の壁」がいつも大きな問題にされる。しかし,絵や写真を交えた交流だと,言葉だけのときよりもコミュニケーションが活性化し,相互理解が深まる事例を紹介し,ビジュアルコミュニケーションの大切さを述べた。それとともに,写真を撮る力の重要性や,絵に表す力の重要性,またそれを読み解く力,感受性なども,コミュニケーションを根底で支える重要な能力で,こうした力を軽視することがないように注意を促した。
黒上先生はシンポジウムのまとめ役として,二人の話を,「授業内容を現実の社会,生徒の生活に近づける」ことと「グローバル・コミュニケーションと情報コミュニケーションをクロスすることで教育効果を考える」ことの2点に焦点化し,フロアとのディスカッションをコーディネートした。また,自身も,教育内容の早期段階への移行が進みそうであることを,現在の状況から問題として挙げ,情報教育も高度化されていくことが予想されると述べた。その際,情報教育のディシプリンとして,「言語学,数学,統計学,心理学,社会学,政治学,経済学,法律学,情報科学,ビジュアルデザイン,コミュニケーション論,メディア論,メディアリテラシー」などを含めていかなければ,小中学校で十分な情報教育を受けてきた生徒には物足りない内容になってしまう恐れがあると述べた。しかし,実現可能性を探ると,「小学校における情報教育の場面と要求水準」「学習内容を一般化する=幅広い範囲の知識」「高度化に生徒が耐えられるか」など,いくつかのハードルがあることも示した。しかしそうしたハードルを越えていくことで,教科「情報」の充実が見えてくるとまとめた。 |
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17:00~17:10 閉会挨拶
生田孝至(新潟大学理事・副学長)
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「情報科は続くのかという質問がありました。答えとしては続くとシンポジストは答えました。それは間違いない。ただ,高度情報通信社会というのは我々が迎えたことのない社会です。他の教科は学問体系がしっかりしている。総合学習も情報教育もそうですが,伝統的な学問の根幹はない。黒上先生が並べてみせた,心理学から統計から法律からさまざまな学問体系がある。情報科は基本的に私はリテラシーを養う教科だと思う。そのリテラシーは単なる読み書きではなく,教養としての,20世紀にはなかった新しい教養なんだと思う。今後も教育者としての問いかけをしていかなければならない。」 |
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